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大阪高等裁判所 昭和62年(う)480号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月に処する。

原審における未決勾留日数中二〇日を右刑に算入する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人村山晃作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、要するに、量刑不当を主張するのであるが、所論に対する判断に先立ち職権をもつて調査するに、原判決は、その判文上明らかなように、原判示第二の散弾銃を改造した銃一丁をけん銃であるとして、これが所持につき銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項を適用しているが、同法にいう「けん銃」は、同法自体に特にその定義は規定されていないものの、一般社会通念として、金属製弾丸を発射する機能を有する装薬銃器で、片手で発射操作のできるもの(東京高裁昭和四七年五月二三日判決高刑集二五巻二号二一九頁参照)と解するのを相当とするところ、前示改造散弾銃(当裁判所昭和六二年押第一四六号の三)及び警察技術吏員久田博作成の鑑定書並びに当審公判廷において取調べた赤松啓之の検察官に対する供述調書謄本等によれば、同銃は水平二連式散弾銃の銃身及び銃床を切断して短くしているものであるが、その全長は約51.4センチメートル、重量は約1.9キログラムであり、通常の体格の日本人にあつては片手で発射操作することが困難なものであると認められること、その形態が散弾銃に類似しており、使用実包も散弾銃用のものであることなどに徴すると、同銃はむしろ同法三一条の三第一号にいう猟銃に当たるものと解される。

従つて、右改造散弾銃の不法所持の罪につき、前示のとおりけん銃所持の罰条を適用した原判決は、その法令の適用を誤つたものであり、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならないが、原判決は、同銃一丁の不法所持と共に火薬類である実包七発の不法所持の事実(原判示第二事実)を認定し、これらを刑法五四条一項前段の関係にあるとして一罪として重い改造銃所持の罪で処断し、更に、これを原判示第一の恐喝未遂の罪と併合罪の関係にあるとして一個の刑を科しているので、その全部を破棄するものとする。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を全部破棄し、同法四〇〇条但書に従い当裁判所において更につぎのとおり判決する。

(罪となるべき事実)

原判示事実と同一である。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

改造散弾銃所持の所為につき銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号を同法三一条の三第一号と変更し、併合罪の処理については重い判示第一の罪の刑に加重するものとし、刑の執行猶予につき刑法二五条一項を付加する外は、原判示の適条と同一である。

(量刑理由)

本件は、暴力団幹部組員である被告人が、組長他数名と共謀し、①同組事務所の外部塗装工事に不備があつたことを理由に同工事請負人から金員を喝取しようと企て、同人に対し、同人及びその家族の生命、身体、財産等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し、金四〇〇〇万円を出せなどと要求して未遂に終わつたという事案と、②約七か月間にわたり、改造散弾銃一丁と実包七発を所持した事案であるが、各犯行の動機に酌むべき点がなく、犯行態様が悪質であることなどの犯情に徴すると被告人の刑事責任は軽いとはいえないが、他方、本件各犯行は前示組長の主導ないし指示により行なわれたものであり、被告人はこれに追従したに過ぎないと認められること、恐喝未遂の罪については実害が生じていないこと、被告人の前科は罰金刑三犯のみであること、暴力団に関係していたとはいえその期間は短く、現在ではこれと絶縁して、知人の経営する土木建設業にたずさわり真面目に稼働していること、その他被告人の家庭の事情などの酌むべき諸事情に他共犯者との刑の権衡をも勘案し、今回に限り特に刑の執行を猶予するのを相当と思料し、主文のとおり量刑した。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石田登良夫 裁判官角谷三千夫 裁判官白川清吉)

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